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札幌家庭裁判所小樽支部 平成3年(少)3303号 決定 1991年10月23日

少年 K・R(昭48.7.31生)

主文

少年を中等少年院(特修短期処遇)に送致する。

理由

1  非行事実

少年は、

(1)  公安委員会の運転免許を受けないで、平成3年9月24日午前8時8分ころ、小樽市○○×丁目×番先路上において、軽二輪自動車を運転した

(2)  同日時、同所先の交差点において、対面する信号機が赤色の灯火信号を表示していたのに、これに従わないで、同車両を運転した

(3)  同日時、同交差点において、同車両を運転中、同交差点を交差道路右方向から青色の灯火信号に従って直進してきたA運転の普通乗用自動車の左側前部側面に自車前部を衝突させ、A運転車両の左側前部のドア等を損壊する交通事故を起こしたのに、その事故発生の日時、場所等法律の定める事項を直ちに最寄りの警察署の警察官に報告しなかったものである。

2  適用法条

(1)  第1の無免許運転につき、道路交通法118条1項1号、64条

(2)  第2の赤信号無視につき、同法7条、4条1項、119条1項1号の2、同法施行令2条1項

(3)  第3の物損事故不申告につき、同法72条1項後段、119条1項10号

3  処遇理由

(1)  中等少年院送致の理由

ア  本件非行は、無免許で、しかも、進路前方の信号機が赤色の灯火信号を表示をしていることを知りながら、信号待ちをしている車両の間を擦り抜け、敢えて通勤時間帯で混雑する交差点内に進入したために、折から信号機の青色表示に従って同交差点内に進入してきた被害車両と衝突したというものであって、一般の道路利用者の生命に著しい危険を及ぼす恐れのある悪質な行為であり、しかも、少年は、事故を起こした後、その発覚を恐れて逃走しようとしたものであって、無責任極まるものである。

イ  少年は、本件非行の1年半程前から、友人の誘いで暴走族に加入し、自ら副会長に就任して、積極的に暴走行為に参加してきた者であり、度重なる道路交通法違反により原動機付自転車の免許停止の行政処分を受けたものであるが、その後も、軽二輪自動車についての免許を受けないまま、本件非行時にも運転していた車両を購入し、マフラーを切り落とし、背もたれを付けるなどこれを大幅に改造し、特に無免許運転が発覚することを恐れてナンバープレートを取り外して、暴走行為を繰り返してきたものであって、本件非行以前にも、当庁において、無免許運転により、交通講習の受講を命ぜられたり、交通短期保護観察決定を受けるなど、再三にわたり、その交通要保護性を改善するための処置を採られてきたにもかかわらず、違反行為を繰り返し、ついに本件非行を惹起するにいたったものであって、このような少年の道路交通法規無視の態度は、常軌を逸するものといわざるを得ない。

ウ  このような少年の遵法精神の欠如、社会秩序軽視の態度は、現在のところ、専ら交通関係法規の違反という形で健在化しているが、少年の所属する暴走族の背後にはいわゆる「ケツ持ち」と称して、その予備軍を物色する暴力団が係わっている上、暴走族同士の対立抗争に端を発する暴力事件も頻発している。また、少年は、本件非行時までに、相当期間にわたって父母の下を離れ、その監督に服さない状態が続いていたばかりか、特段の見通しもないまま勤務先を辞め、交際中の女性に生活費を出してもらいながら、無為徒食の生活を送っていたものであって、このように少年が今後不良集団と深く関わっていく可能性があることや少年自身の不安定な生活態度等を考慮すると、早い段階で少年の問題性を改善しないときは、更に一般非行へと問題行動を発展させる虞れが非常に高いものといわざるを得ない。

エ  鑑別結果通知書によれば、少年は、今回の鑑別所への入所により、従前の社会秩序を無視した行為、目標のないまま毎日を無為に過ごすだけの生き方等を反省する姿勢を示しているものの、同所における行動観察によって、いまだ不良顕示的な行動が見られることが指摘されている。また、その性格、行動傾向上の問題点として、自己中心的で、わがままであり、余り深く物事を考えず衝動的な行動に走る傾向があることが指摘されており、これまでの少年の非行行為も、このような少年の性格、行動傾向上の問題点に起因するところが大きいものと推測される。

オ  少年の父母においては、少年自身が、厳格で支配傾向の強い父親への反発等から家を出て、その監督に服そうとしなかったために、これまで十分な監督ができない状態であった。

以上のような本件非行の重大性、少年の非行化の程度、その性格、行動傾向、保護者の監護能力、従前の処遇歴等を総合的に考慮すれば、少年の規範意識を覚醒させ、価値観の偏りを矯正し、健全な生活習慣を身に付けさせて、その更生を図るためには、もはや在宅処遇ではその目的を達し得ないものというべきであり、これを速やかに少年院に収容して強力な矯正教育を施す必要があるものというべきであるから、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項及び少年院法2条3号をそれぞれ適用して、これを中等少年院に送致することとする。

(2)  特修短期処遇勧告の理由

ア  少年には、これまで施設への収容歴がなく、その非行性も、既に見たとおり、現時点においては、交通関係法規違反という場面に限局して現れている段階であって、速やかで強力な矯正教育がされれば、その非行性が更に進むことを阻止することが可能であるばかりか、その改善も決して著しく困難であるとはいえない。

イ  少年は、本件非行当時は、既に見たとおり、無職の状態であったものの、父母の下を出てからそれまでの約2年間、寿司屋の店員として真面目に勤務し、それなりの実績を挙げ評価されてきていたものであって、また、少年自身、今後とも寿司屋で修行を続けたいという強い希望をもっていることが認められる。

ウ  少年は暴走族に加入し、自ら副会長に任じ、その集団内で積極的な役割を果たしていたものであるが、その間、特にその背後にある暴力団と深い関わりをもっていたものとは認められない。

エ  また、少年の父母が少年に対して十分な監護の実績を挙げ得なかったことも既に見たとおりであるが、同人らは、真摯で健全な生活態度を有し、少年の監督に対しても十分な意欲と能力を持っており、少年自身も父母に対する親和感を失っていないものと認められ、少年及び父母の双方に対して、その間の関係を調整するための働きかけがされることにより、少年にとり適切な保護環境が整備されることが期待できる。

以上に見たとおり、少年の非行性はもはや矯正が著しく困難であるという程度までにはいたっていないこと、少年には施設への収容歴がなく、暴力団等の反社会的集団との深い関わりもないこと、少年及び父母双方に対して適切な働きかけを行うことによりその保護環境も改善され、父母による適切な監督も期待できること、少年自身が将来の展望について真剣に考え始め、そのための努力を誓っていることなどの事情を考慮するときは、少年院入所の初期の段階において、少年に対して強力かつ適切な指導がされ、その間に少年の戻るべき家庭環境が調整されるときは、むしろ、早期に少年を開放的な環境において円滑な社会復帰を図ることが、少年の更生にとって望ましいものと思われるから、少年審判規則38条2項により、少年が収容されるべき少年院においては特修短期処遇が採られるように勧告する。

(裁判官 原田晃治)

〔参考1〕処遇勧告書<省略>

〔参考2〕少年調査票<省略>

別紙

1. 犯罪事実

被疑者は

第1公安委員会の運転免許を受けないで、平成3年9月24日午前8時08分ころ、小樽市○○×丁目×番先路上において、軽二輪自動車(車体番号××××-×××××××)を運転し

第2前記第1記載の日時場所の交通整理の行われている交差点において、信号機の表示する「止まれ」の信号に従わないで前記車両を運転したため交差道路右方から青色の灯火信号に従って直進して来た○○(当50歳)運転の普通乗用自動車(札幌×××××××号)の左前部側面に自車前部を衝突させて同車の左前部側面ドア等を損壊させた

第3前記第2の如く交通事故を起こしたのに、その事故発生の日時及び場所等法律の定める事項を直ちにもよりの警察署の警察官に報告しなかった。

〔参考3〕鑑別結果通知書<省略>

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